きき酒師(日本酒ソムリエ)の渡邉です。
12月にもなると、お正月の準備を始める頃ですね。
普段はビールしか飲まないウチの父も、正月には嬉々として日本酒を飲んでいます。
やはり伝統行事の正月には、おせちを肴に日本酒が飲みたくなるのが日本人の性のようです。
そこで今回は、正月じゃなくても年中日本酒を飲んでいる私が、
- お正月におすすめの日本酒の選び方
- 正月にふさわしい日本酒厳選7選
を紹介します。
目次
お正月にふさわしい日本酒の選び方
実は、正月の日本酒選びに「しきたり」はない
「門松」「鏡餅」「祝い箸」など、正月には様々なしきたりがあります。
ともすれば、日本酒の選び方にも何か決まり事がありそう(「純米酒じゃないといけない」とか「吟醸酒以上のグレードじゃないといけない」とか)ですが、そういったものは特にありません。
強いてあげれば、おせちを食べる前に「お屠蘇」を飲むというものがありますね。
「お屠蘇」は、日本酒にスパイスや漢方を漬け込んだ薬酒。無病息災を祈る意味で飲まれる風習が、いまでも残っています。
つまりこのお屠蘇は食前酒ですが、それ以降の、おせちと共に楽しむ日本酒に関しては、とくに決まり事はありません。
各々が好きな酒を飲んでいいんです。
強いて言えば「おせちに合う」日本酒であること
まあ決まりでもなんでもないですが、どうせ飲むならおせちに合う日本酒がいいですよね。
では、おせちに合う日本酒とはどんな特徴のお酒でしょうか?
ぶっちゃけ、おせちの調理法からして、「おせちに合わない日本酒を選ぶ方が難しい」と思えるほど、日本酒とおせちの相性はいいです。
その中でもより「おせちと合う日本酒」を選び出し、最高の正月を過ごすためのポイントが以下の3点です。
- 少しでもいいので甘みが感じられるもの
- 魚の風味に押されない厚み・キレ
- 華やかな香りがある(オプション)
1. 少しでもいいので甘みが感じられるもの
醤油とみりん、砂糖の甘辛い味付けが多いおせちには、少しは甘みを感じられる日本酒の方が味わいが調和しやすいです。とはいえ、どの日本酒も(多かれ少なかれ)米麹由来の糖を含んでいるので、少しの甘みも感じられない日本酒のというのもそうそうありません。
逆に言えば、甘さに関してはけっこう攻めていいということでもあります。普段は料理との相性を気にして、(本当は甘いのが好きなのに)甘い日本酒を避けていた人は、本来の欲望を解放できるチャンスです。
2. 魚の風味に押されない厚み・キレ
魚に合うというイメージが強い日本酒ですが、細い(淡い味わいの)酒は、意外と簡単に魚の風味(悪く言えば、生臭み)に負けてしまいます。おせちは魚介も多く、ブリなどは脂がのったものが使われている事もあるでしょう。
そんなときは、ある程度の、旨みや酸味の厚み、ドライなキレのよさが必要です。ただ、白身魚の刺身など繊細な料理には、その厚みが仇となることもあるので、バランスが難しいところ。記事の後半では、そこのバランスが取れたオススメ日本酒を紹介しています。
3. 華やかな香りがある(オプション)
まあ華やかな香りが好きじゃない人もいる(ウチの父親とか)ので、これはオプションです。
華やかな香りとは、吟醸系のお酒に特徴的な吟醸香の事ですね。特別純米酒にも華やかなものは割とよく見られます。
やはり正月の、新年の雰囲気には、華やかな香りが合います。果実の香りに近い、フルーティーな香りでもいいと思います。
味自体はそんなに甘くなくてもいいので、後味にふわっと吟醸香が感じられると、新春の訪れを思わさるものがあり、至福の余韻に浸れます。
厳選・正月におすすめの日本酒7選
ニーズ別・おすすめ日本酒早見表
※表の下に詳細が続きます
日本酒 | 特定名称 | ニーズ |
久保田 萬寿 | 純米大吟醸 | 正月ならではの高級感、華やかさとリッチな味わいを存分に感じたい方に。 |
鳥海山 | 純米大吟醸 | 酸が心地いい純米大吟醸。大吟醸の華やかさを味わいながら、和洋中すべてのおせち料理に合わせたい方に。 |
久保田 千寿 | 純米吟醸 | 万人に愛される食中酒。とにかく外したくない、確実におせちに合う日本酒が欲しい方、萬寿ほどはコストをかけたくない方に。 |
一ノ蔵 無監査 | 本醸造 | 華やかさは不要。昔ながらの日本酒。コストをかけずたくさん日本酒が飲みたい方に。 |
木戸泉 自然舞 | 特別純米 | 華やかさは不要。おせちはもちろん、刺身から唐揚げまで、どんな料理とも合う純米酒が欲しい方に。 |
繁桝 箱入娘 | 大吟醸 | 極上の華やかさで、迎春のおめでたさを全身で味わいたい方。ファーストクラス級の特別感が欲しい方。 |
正月にふさわしい華やかさと奥深さ
新潟・朝日酒造の「久保田 萬寿 純米大吟醸」。
別に有名ドコロを紹介してはいけないルールはないですが、はなから有名ドコロの登場でなぜか申し訳なさを感じています。しかし、それでも紹介するのは、それに値する理由があるからです。
上品で華やかな香り(吟醸香)と、深い味わい。甘さもしっかりめに感じられますが、品のある甘さで、そこからも上質さを感じさせます。
ものすごく美味しいんですが、飲む方も少し畏まってしまうぐらい上質さを感じさせる酒で、正直日常使いしようとは思わない酒です(なんというか、しっかり味わわないとと、勝手に気疲れしてしまうんですよね)。
ですが、正月のような特別な日にはむしろ積極的に飲みたくなる日本酒です。ハレの日の特別感を存分に味わいたい方には文句なしにオススメの1本。
より詳細な情報、おせちの各料理との相性や、その他の料理とのペアリング、キャンプとの相性などについては以下の記事で紹介しています。
【詳細記事】
▶︎久保田 萬寿 純米大吟醸。味わいと料理とのペアリングの評価まとめ
現代の正月に。酸が心地いい純米大吟醸、という選択肢
鳥海山 純米大吟醸(秋田・天寿酒蔵)。
こちらも前出の萬寿と同じ純米大吟醸ですが、
大吟醸の華やかさに加え、心地いい酸の効いた、少し厚みのある味わいで、飲みごたえのよさも感じられます。
なので、濃い味付けや、油分の多いパンチのある料理にも合わせられる力強さがあります。
正月はやはり大吟醸を飲みたいという気持ちがあります。一方で、現代の正月では繊細な和食料理だけでなく、味の濃い様々な料理も食卓にのぼります。そういった料理にも合わせられる大吟醸として、おすすめの一本です。
より詳細な情報、おせちの各料理との相性や、その他の料理とのペアリングについては以下の記事が詳しいです。
【詳細記事】
▶︎【鳥海山 純米大吟醸】日本酒ソムリエの評価・飲み方や料理とのペアリングについて
万人にお勧めできる優等すぎる優等生
「久保田 千寿 純米吟醸」。
また久保田になってしまいますが、この日本酒は万能で優秀すぎて、ちょっと紹介せざるをえないんですよね。
何が優秀かというと、すべてがちょうどいいんです。
ちょうどいい吟醸香、ちょうどいい旨み、甘み、ちょうどいいドライ感。そして、キレはかなりいいです。食中酒として万能で、ほとんどのおせちとも、素晴らしく合います。
(萬寿ほどの高級感ではなく)プチ贅沢感ぐらいがちょうどいい、おせちのどのおかずでも引き立てられる万能食中酒が欲しいという方にオススメです。
それと同じ用途だと、「喜多屋 純米吟醸 吟のさと(福岡・八女)」などもお勧めです。
より詳細な情報、おせちの各料理との相性や、その他の料理とのペアリング、キャンプとの相性などについては以下の記事で紹介しています。
【詳細記事】
▶︎【久保田 千寿 純米吟醸】利酒師が飲み方や料理との相性を評価
(ご自身の)故郷 or 自宅の近所の酒蔵の酒
正月には里帰りする人も多いでしょう。
そんな地元で過ごす正月だからこそ、「その土地の地酒を飲む」という楽しみ方もなかなか乙なものです。
故郷の地で、故郷の酒を飲む。
そんな「シチュエーション」と「ストーリー」のペアリングも悪くありません。里帰りしない人は、現住所の最寄りの酒蔵の地酒で、その土地の風土を感じるといいのではないかと思います。
せっかくなので、正月らしく、初搾りの酒や、干支のラベルをチョイスするのも乙なものです。
気取らない正月には、気取らない酒を
正月というハレの日には、吟醸酒の華やかさがよく似合うという話をしてきました。
ただ、正月だからといって特に気張ることもなく、いつもの日常の延長として過ごしたいという方もいると思います。
あるいは、正月はとにかくお酒を飲んで過ごしたい。そのためにはそれなりに量が必要。だから、大吟醸では予算オーバーだ、という方もいるでしょう。
そんな方にお勧めなのが、「一ノ蔵 無鑑査 本醸造(宮城・大崎市)」。
華やかな吟醸香とは無縁の、いわゆる昔ながらの日本酒。しかし、その仕上がりは一級品。
米の香りや旨みは感じられながらも、雑味のない洗練された仕上がり。
一升瓶で仕入れていれば、正月の食卓には非常に頼もしい存在です。
刺身から唐揚げまでマッチする、珠玉の純米酒
木戸泉 自然舞 特別純米(木戸泉 千葉いすみ市)。
万能食中酒として”久保田 千寿 純米吟醸”を紹介しましたが、「華やかさ(吟醸香)はいらない」という方にお勧めしたい食中酒がこちらの1本。
自然農法*米を原料に、高温山廃づくりにて醸されたのがこちらの純米酒。
山廃による心地よい酸。そして、自然米由来の旨味は、大地の養分を貪欲に蓄えたことによる逞しさのようなものが感じられます。
具体的に言うと、誤解を恐れずに例えるとすれば、少し醤油に似たような旨味が感じられます。
酸と旨味により厚みを感じる酒ですが、それでいて繊細さも感じさせる、味わいのバランスの緻密さがあります。
そのため、唐揚げのような味の太い料理にも合いながら、白身魚の刺身のような繊細な料理ともマッチするという、離れ業をやってのけてくれます。
まさに、バラエティ豊かな品が1つに詰め込まれた「おせち」という料理ににふさわしい日本酒です。
*自然農法
有機栽培とも異なり、農薬も肥料も使わずに栽培する手法
より詳細な情報、おせちの各料理との相性や、その他の料理とのペアリングについては以下の記事が詳しいです。
【詳細記事】
▶︎【木戸泉酒造 純米酒 自然舞】利酒師の味の評価と飲み方、料理との相性【千葉・いすみ市】
特別感・高級感が最優先なら。ファーストクラスの大吟醸
お酒の華やかさ・高級感に関しては、「純米大吟醸」よりも「大吟醸」の方が強く感じられる傾向があります。
大吟醸では、製造中に醸造アルコールを投入する点が、純米大吟醸と異なる点です。これには、酒の味わいを軽快にしつつ、酒の吟醸香を引きだす効果があり、結果として酒の華やかさがとても明瞭に感じられるようになります(ですので全国鑑評会には、多くの蔵が大吟醸を出品します)。
この高級感は、(個人的には)やはり日常生活の中では積極的に飲もうという気にはなりません。そして、純米大吟醸より料理に合わせるのが難しくなるという側面もあります。ですが、その高級感は、逆に正月のようなハレの日に非常によくマッチし、料理との相性を度外視してでも、積極的に飲みたくなります。
そこでお勧めなのが、繁桝 大吟醸 箱入娘 (福岡県・八女市)です。
関連記事:ファーストクラス提供の日本酒•繁桝 箱入り娘。唎酒師の評価と飲み方【高橋商店・福岡 八女】
平成2年に日本航空(JAL)国際線ファーストクラスの機内酒として採用もされた、大吟醸。2023年のIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の大吟醸部門で受賞もしています。
メロンをさらに上品にしたような華やかで落ち着いた吟醸香は、万人が頷く高級感を感じさせます。
こちらの記事にもあるように、大吟醸の中では料理とも合わせやすく、正月にも特におすすめできる大吟醸です。
新しい年の始まりを、より特別な時間でスタートを切りたいときに手に取る日本酒です。
ニーズ別おすすめ日本酒一覧
日本酒 | 特定名称 | ニーズ |
久保田 萬寿 | 純米大吟醸 | 正月ならではの高級感、華やかさとリッチな味わいを存分に感じたい方に。 |
鳥海山 | 純米大吟醸 | 酸が心地いい純米大吟醸。大吟醸の華やかさを味わいながら、和洋中すべてのおせち料理に合わせたい方に。 |
久保田 千寿 | 純米吟醸 | 万人に愛される食中酒。とにかく外したくない、確実におせちに合う日本酒が欲しい方、萬寿ほどはコストをかけたくない方に。 |
一ノ蔵 無監査 | 本醸造 | 華やかさは不要。昔ながらの日本酒。コストをかけずたくさん日本酒が飲みたい方に。 |
木戸泉 自然舞 | 特別純米 | 華やかさは不要。おせちはもちろん、刺身から唐揚げまで、どんな料理とも合う純米酒が欲しい方に。 |
繁桝 箱入娘 | 大吟醸 | 極上の華やかさで、迎春のおめでたさを全身で味わいたい方。ファーストクラス級の特別感が欲しい方。 |